支持体ごとの留意点

アクリル絵具は何にでも着彩できますが、安定性を最大限に高めるためにはいくつかの基本原則を理解しておくことが大切です。

支持体は着彩の基本土台であり、作品のタイプに適したものでなければなりません。支持体と下地の選択は、着彩工程での絵具ののり具合と作品の全体的耐久性に大きく影響します。なめらかな支持体ほど、絵具は乾くまでに時間がかかり、自由に動きやすくなります。一方、多孔質で吸水性の高い支持体はその反対の効果があります。

始める前に

  • 新しい素材や支持体を使い始める前に、定着性テストを行い、適合性を確かめてください。
  • 下準備した支持体に絵具またはメディウムを塗布し、72時間(湿度が高い環境ではそれ以上)待って硬化させてください。
  • 完全に乾いたら、鋭利なナイフで表面に網目模様を入れます。
  • 模様をつけた表面にマスキングテープをしっかり貼り付け、押しつけてからゆっくりはがしてください。
  • テープに絵具が付着していたら、表面定着性が十分ではありません。別の下準備の方法を試すか、支持体を変えましょう。

注意ポイント

支持体成分からの変色ーアクリルメディウムに含まれる水分が乾く時に支持体から不純物を引き出すことによって起き、時間の経過とともに黄色または褐色に変色する場合があります。主要高級絵具メーカーが現在販売しているアクリルメディウムすべてについて起きる可能性があります。この現象を抑えるには、作品に取り掛かる前に生のキャンバスまたは布を洗い、乾燥させてください。そうすれば、上から塗り重ねても問題ありません。アクリルメディウムの変色具合は次の条件によって変わります。

1.アクリルメディウムの質ーリキテックス製品は、純度が高く、柔軟で黄変しにくい樹脂組成を採用しています。

2.メディウムを塗る厚さージェルタイプは厚みが出やすく、水分を多く含み、乾燥するまでに時間がかかるため、リキッドタイプのメディウムよりも支持体の成分による変色が起きやすい傾向があります。

3.支持体に使用されている成分ー支持体によって含まれる着色剤や不純物が異なります。

目的に合った下地作り

  • 吸収性や粗目を抑えた支持体にするには、リキテックス ジェッソをリキテックス マットメディウムで薄めてください。
  • リキテックスのテクスチュアメディウムまたはペーストはどれもジェッソと混ぜ合わせることができ、それによってさまざまなマチエール(テクスチャー)を表現できます。
  • リキテックス モデリングペーストは、パステル、チャコール、黒鉛を使った作品のための定着性の高い下地作りにも最適です。ジェッソとモデリングペーストを3:1の割合で試してみてください。

柔軟性のある支持体

紙材

多くの紙材は特定の溶剤用に作られ、表示がされていますので、下準備はほとんどあるいはまったく必要ありません。

種類
  • イラストレーションボードはアクリル画のための仕様です。
  • コールドプレス(荒目)の紙または板紙にはラフな質感があり、水彩画法やエアブラシ法に適しています。
  • ホットプレス(細目・極細目)の紙または板紙の表面はなめらかです。
  • たわみを防ぐために、ほとんどの用途の場合は厚みのある紙材をお勧めします。
下準備
  • 紙材は紙の繊維が湿気を吸収するのを防ぐため、お使いになるまで密閉して保管してください。
  • 平らな状態を保つためには、支持体に紙の周囲をテープで留め、紙が完全に乾燥するまでテープをはがさないでください。
  • 紙の色を活かし透けて見えるようにしたい場合は、リキテックス クリアジェッソまたはリキテックス マットメディウムをお選びください。
  • クリアジェッソには細い骨材が含まれており、画肌に粗目が加わるため、パステル画に最適な下地になります。

布・皮

種類
  • リキテックスのアクリル絵具はコットン、ポリコットン、織地、編地、フェルト、スエード、レザー、テリークロス、シルク、ベルベット、ベッチン、コーデュロイ、フランネルにお使いいただけます。
下準備
  • 洗える素材であれば、のりを落とすために一度洗って乾かしてください。
  • レザーは湿らせたきれいな布で拭き取り、完全に乾かしてください。スエードはスエードブラシでブラッシングしてください。
  • まずはお試し用の小さな布やレザーで問題がないか確認してください。

キャンバス

キャンバスは、コットン、亜麻、麻(ジュート)、天然繊維・合成繊維などさまざまな種類があります。何も処理や地塗りをしていないものも、予め枠材やパネルに張ったものもあります。

種類
  • 何も処理していないコットンキャンバス地が最も一般的でよく用いられます。
  • 亜麻は強度と耐久性に優れていますが、油分が含まれていますので、必ずしもアクリル画に適しているとはいえません。
  • 麻(ジュート)は褪色に強いとは言えませんが、表情をつけたい時に用いられ、何より安価です。
  • 合繊繊維キャンバスは均一な質感が特徴で、強度と耐久性に特に優れています。
  • アクリルジェッソやオイル下地で予め地塗りされたものが市販されており、種類も豊富です。天然素材・合成素材、重さ、織り模様、質感、地塗り剤が1種類・2種類など幅広いバリエーションがあり、ジェッソを重ねたり、研磨したりしてさらになめらかに整えることができます。地塗り済みキャンバスは生のキャンバスより張る作業が難しく、キャンバスプライヤー(張り器)が必要です。
下準備
  • 高品質で黄変しにくいリキテックス アクリルジェッソは、油絵具やアクリル絵具で着彩する前の地塗りや粗目を加える作業に最適です。クリアジェッソ、定番のチタニウム ホワイトのジェッソ、ブラックジェッソ、カラージェッソ、スーパーヘビージェッソからお選びください。
  • 地塗り剤から地が透けて見えるようにしたい場合は、リキテックス クリアジェッソ、マットメディウムまたはマットジェルメディウムをお使いください。もっとマチエール(テクスチャー)が欲しい場合はスーパーヘビージェッソをお使いください。
  • 生のキャンバスを枠材に張り、留めてから、ジェッソを塗布してください。これによって地を固定させることができます。あまり強く張りすぎると、ジェッソが乾いた時の縮みで木枠がたわむ原因になります。
  • 完全に乾くまで少なくとも24時間待ってから、着彩やジェッソの重ね塗りを始めてください。
  • 油彩画の下地作りの場合は特に、ジェッソを塗り重ねるのがお勧めです。表面がよりなめらかになり、保護効果や定着性も高まります。
  • 1回塗る都度、軽く研磨すると着彩面がよりなめらかになります。
  • 予算に限りがあって、でも重ね塗りしたい時は、最初のコーティングにリキテックス マットジェルメディウムをお使いください。
  • リキテックスのジェッソはキャンバスに直接、筆やコテで塗ったり、スプレーしたりが可能です。筆ムラのないなめらかな表面にしたい場合は、幅広のペインティングナイフかスキージーを使い、半円を描くように塗布してください。またはコテバケを使ってジェッソを織地に塗り込めてください。その後乾かし、細目のサンドペーパーで軽く研磨してから、2回目を塗布してください。スプレーする時は、場合によってリキテックスペインティングメディウムで薄める必要があります。およそ1:1の割合か、必要に応じてメディウムを増やしてください。

エッグシェルキャンバス

この下準備を行うと、表面が卵の殻のように非常になめらかになり、肖像画やエアブラシ技法に最適です。

下準備
  • 400番の耐水ペーパーと霧吹きを使い、ジェッソの表面を円を描くように湿らせながら研磨し、乾燥させると、なめらかに仕上がります。もろく、ひび割れやすくなるため、研磨し過ぎには注意しましょう。

硬い支持体

板材

  • 発泡スチロールの板材はたわみやすく、長時間の制作にはお勧めしません。ですがお使いになる場合は、軽く研磨してからリキテックス ジェッソを2回コーティングしてください。1回目と2回目の間に研磨します。その後一晩乾燥させてください。
  • キャンバスボードは一般にコットンキャンバスが使用され、厚手の板紙を包んで、のり付けされています。仮作業の場合は問題ありませんが、たわみや劣化を起こしやすいため保存性を必要とする作品にはお勧めしません。
  • ハードボードなどの圧縮硬質繊維板は保存性を必要とする支持体としてはお勧めしません。未硬化のハードボードはたわみが起きやすく、安定性があまりありません。硬化ハードボードは油性物質が含まれているため、長期的な絵具の定着性に影響を与える可能性があります。保存性を必要としない場合は、未硬化のハードボードをお使いになってもかまいませんが、事前にリキテックス ソリューバー・グロスバーニッシュなどの保護バーニッシュで全体をコーティングする必要があります。その後光沢のある表面を研磨し、リキテックス ジェッソを少なくとも2回塗布して下準備をしてください。塗布したら研磨し、2回目は1回目の向きに対して直角方向に塗布してください。

合板

  • 合板はどのタイプでも2~5回のジェッソの塗布が必要です。硬いほど多孔質ではないため、コーティング回数は少なくて済みます。
  • 合板の一種であるMDO(中密度オーバーレイ)合板は、片面または両面に紙が貼ってあります。重量はありますが、通常の合板にはない非常になめらかな表面が特徴です。
  • 高品質の外装用合板は絵画の支持体として非常に優れています。マホガニー、カバノキ、カエデ、オークを使った1/8インチ(3mm)の合板が市販されており、たわみを防ぐ木枠にはめることができます。

ガラス繊維

  • ガラス繊維は、表面を正しく整えておけば、アクリル絵具にも油絵具にも適しています。
  • まず表面をサンドペーパーかサンドブラストで研磨し、表面に残った粉を取り除いてください。
  • 次に、KILZなどの工業用溶剤系地塗り・目止め剤(水性溶剤用)を塗布し、3日間待って硬化させます。
  • きちんと定着しているか確認してから、軽く研磨し、リキテックス ジェッソを塗布し、一晩乾燥させてください。
  • 定着しているかもう一度確認してから、着彩し、最後の仕上げコートとしてソリューバー・グロスバーニッシュを塗布してください。

金属・ガラス

  • 金属またはガラス素材をアクリル画用に準備する時は、まずサンドブラストまたは400番のサンドペーパーで研磨します。
  • アルミニウムは5%の苛性アルカリ溶液で4~5分間エッチング処理し、ガラスは酸エッチング処理を施すかサンドブラストで研磨します。
  • 表面を脱脂し、工業用プライマー(水性溶剤用)を塗布してから、完全に乾燥させ、定着しているか確認してください。リキテックス ジェッソをスプレーまたは筆で塗布し、3日間乾燥させ、定着しているか再び確認します。

プラスチックパネル

  • 表面の下準備はお使いになるプラスチックの種類によります。時間の経過とともに塗膜と反応しないよう、化学的に不活性であることが必要です。
  • 絵具を定着させるには若干の粗目が必要です。まったくない場合は、防塵マスクを着用のうえ、着彩部分を細目または中目のサンドペーパーで研磨してください。
  • 準備が整ったら、不透明または透明の下地にしたい場合は、リキテックス マットメディウムかマットジェルメディウム、もしくはリキテックス ジェッソかクリアジェッソを1~2回塗布してください。
  • パネル両面に着彩できるため、立体的に表現できます。
  • 仕上がった作品の保護とコーティングのためにソリューバー・グロスバーニッシュを塗布してください。

アセテート

  • アセテートは透明でもろい性質のあるプラスチック素材です。厚さも表面の質感もさまざまな種類があります。
  • つや消しアセテート、テクスチャードアセテート、ウェットメディアアセテート(別名、プリペアードアセテート)はアクリル画材に適していますが、スムースアセテートはアクリル画材にはお勧めしません。

マイラー(ポリエステルフィルム)

  • マイラーはアセテートのすべての特性と用途を備えた、柔軟性と強度に優れたフィルムです。
  • アセテートよりもかなり高価ですが、伸び、ひび割れ、黄変に強い性質があります。
  • 線画の複製など感光性の支持体や表面の下準備の必要がないウェットメディアフォームに使用できます。

ブロック・コンクリート

  • ブロックやコンクリートは、使用前に完全に乾燥させ、硬化させる必要があり、これには8~12週間かかります。
  • 水分と、建築作業時によく用いられる表面の撥水加工やセメント塗料、シリコンはすべて取り除かなければならず、これができていないとアクリル絵具の定着性が持続しません。
  • リキテックスのアクリル絵具はブロック壁に直接塗布できます。
  • 美しい仕上がりにするには、リキテックス マットジェルメディウムをコテで塗り広げます。これによって壁がコーティングされ、絵具の量を抑えることができます。
  • マットジェルメディウムが完全に乾いてから、ジェッソを1~2回、塗布してください。

壁画

  • リキテックスのアクリル絵具は、フレスコ画、焼き付け画、モザイク画、ステンドグラス、写真など幅広い技法にお使いいただけます。
  • 表面からグリス、ワックス、油分、破片を取り除き、構造的に安定している必要があります。詳しくは壁画制作のアドバイスのページをご覧ください。

石膏ボード

  • 油絵具またはアルキド樹脂絵具で着彩されていない場合に限り、使用できます。
  • まず、ソリューバーなどの保護バーニッシュまたは市販製品(水性絵具の場合はAqualockTMなど)でコーティングします。
  • 完全に乾かしてから、筆、スプレー、コテバケを使ってジェッソを2回塗布します。

特殊な支持体

  • アクリル絵具との適合性を確認してください。特定の支持体は着彩してすぐ、または時間の経過とともに絵具に対して有害な反応を起こすことがあります。

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